※コレぺティトアは、日本語で表すなら、指導伴奏ピアニストとでも言えるかと思います。
日本では略してコレペティと呼ばれることも多いです。
※コレペティトア(Korrepetitor)は、またはコレペティトール、略してコレペティとも。
女性形はコレぺティトーリン。
…私は女性なので、帰国してからしばらくは経歴に「コレペティトーリン」と記していたのですが、
世間一般に知られている方が良いとのご意見をいただき、コレペティトアまたはコレペティトールとする事にしました。
因みに、Korrepetitorの他にも、Repetitor, Solorepetitorという言い方もあり、いずれもドイツ語ですが、
フランス語ではcorépétiteur、répétiteur…こちらもよく使われるようです。
言葉自体の意味は、Kor-は ラテン語のCor-=「一緒に、共に」から来ており、
repetieren=「繰り返す」「復習する」、repetition=「繰り返し」
...をする人、
つまり、「共に繰り返す人」...笑。
…確かに、ピアノに向かいながら「一緒に何度も何度も稽古する」のが大切な仕事です。
ヨーロッパには劇場文化が浸透しており、オペラやオペレッタ、ミュージカル等の音楽公演にも身近に触れることができます。
劇場音楽のシステムの中には、それぞれの専門分野を持った多くの人々が働いており、指揮者、オペラ歌手、オペラ合唱団、ステージマネージャー、演出家やプロンプター等々…と並んで、
コレぺティトア(以後、コレペティ)も重要な役割を担って存在しています。
コレペティには、大きく分けると、歌手コレペティ(ヴォーカル・コーチ)、器楽コレペティ、バレエ-コレペティがありますが、
私は歌手を対象としたコレペティの仕事をメインにしてきました。
例えば、大編成のオーケストラと声楽のソロ・アンサンブル・合唱で構成されるオペラなども、
稽古では、初日公演間近までコレペティがオーケストラのパートをピアノで弾いています。
また、劇場のコレペティの仕事には、オーケストラ奏者を選抜する為のオーディションで伴奏する仕事もあり、
そちらは器楽コレペティに当たります。
器楽コレペティと言えば、音楽大学の器楽科には必ずその楽器担当のコレペティの先生がおり、
その楽器のレパートリーを熟知し、コレペティならではのレッスンをはじめ、試験や演奏会でもピアノ・パートを受け持ちます。
(同じことが、音大の声楽科にも言えます)
私はワイマールの音大で「オペラ-コレペティOpernkorrepetition」を専攻としていましたが、
この学科では、将来劇場のコレペティとして通用するようなカリキュラムが組まれているので、
他にも「器楽コレペティ」「歌曲解釈・演奏法」「ソロ演奏」「指揮法」「スコアリーディング」「声楽」他、
様々な実技レッスンがありました。
コレペティ専攻は、私の母校では「指揮科」に属していました。
「指揮科」の中で、「オーケストラ指揮」「合唱指揮」「コレペティ」というように専攻が分かれており
(音大によっては、更にコレペティの中で「声楽」「器楽」「バレエ」と細かく分かれているところもあるようです)
しかし、指揮学科のどの専攻でも、比重こそ異なってもカリキュラムはほぼ同じです。
後々知ったのですが、劇場のコレペティになる人の中には、ゆくゆく指揮者を目指す人も多いです。
名だたる指揮者で言えば、例えば、カルロス・クライバーや、フルトヴェングラー、ショルティのような方も、劇場でコレペティとしてスタートしたとの事ですね。
とは言え、私が指揮よりもピアノを弾く側でいたい方なのは変わりませんでしたが、
指揮の勉強、指揮科のレッスンでよく弾いていた事や、指揮者の視点で楽譜を学んだ事、
それらは、現場で指揮者と組んで弾いたり、指揮者がいない稽古で弾いたり、また、音楽を理解する上でも、私にとっては不可欠だったと感じています。
ワイマールの音大に入学してコレペティのレッスンを始めたばかりの頃、専攻の先生が仰った言葉:
「あなたはコレペティってどういう仕事か知っていますか?」
「弾いているのはピアノでも、指揮者のような感覚で、指揮者のような存在でなければならないんだよ。」
「ピアノ・スコアで弾く時は、今弾いているのが弦なのか、金管なのか、木菅なのか…頭に音が鳴っていなくてはならないよ」
そんな言葉が印象に残っています。
それから先、6年にわたる学生生活の中で、先生は様々な曲、そして先生ご自身の姿を通して、
コレペティの魅力や大切さ、楽しさを伝えてくださいました。
歌う側の気持ちになって…、場合によっては楽譜に書いてある音をそのまま弾かない方が良いことがあったり、
逆に、ここでは本来こんな音が鳴るんだよ、と書き込んでくれたり。
レッスンのはじめに初見の練習も兼ねた先生との4手連弾や、
クリスマスの時期が近づくと恒例だった「クリスマス・オラトリオ」の演奏も懐かしい。
また、先生は「結局は実践からしか学べないんだよ」とも仰っていて、
それは後になって納得しました。
コレペティで特にオペラを勉強・練習する際にいつも付いてきたこと、それは「弾き歌い」でした。
一つには、劇場のコレペティのポストのオーディションで求められる課題のお決まりは「オペラのシーンの弾き歌い」です。
(他には、場合によって 指揮に合わせて弾く、初見奏、行き当たりばったり歌の人と稽古したり、ソロ曲を弾いたり 等。)
また、稽古で不在の歌手の穴埋めに歌ったり、「弾き歌い」が必要とされる場面は多いし、
歌手の発音や音程を直したり指摘したりするのも仕事であるから、
実際には「弾き歌い」をしない場合でも、歌のパートをずっと追いながら/聴きながら弾ける事が基本とされます。
ちょっと長くなってしまいましたが💦
なんとなくコレペティについてイメージを持っていただけたでしょうか…。
また思い付いたことがあったら書いていこうと思います。
日本に帰ってきてからは、正直、オペラに取り組む機会はそんなには無いのですが、
今も、コレペティ専攻や仕事で得た経験が、合唱指導やヴォーカルレッスン、演奏や、色々な形での音楽活動に生きており、
また、これからも、
その都度、新しい気持ちで学んでいきたいと強く願っております。
アマチュアの方からプロの方まで、
音楽を通じての素晴らしい出逢いやご縁に日々感謝しています🌸